CHIASMA/山下洋輔トリオ


キアズマ

私的JAZZ名盤集Vol.1

1.Double Helix/2.Nita/3.Chiasma  
4.Horse Trip/5.Intro Hachi/6.Hachi
山下洋輔(p)/坂田明(as)/森山威男(ds)

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コーヒーを注文してからママさんに勇気を出して声を掛けた。「あのー、リクエストできますか?」「ええよ、なんやの?」「山下洋輔トリオが聞きたいんですが」「へぇー、あんた洋輔さん聞くの?ほんならこれ聞いてみ」とかけてくれたのが「キアズマ」だった。 これが、僕をジャズの世界に引きずり込んだ張本人的アルバム。
山下洋輔(P)/坂田明(AS)/森山威男(DS)というジャズ史上最強(日本の、ではなく冗談抜きで世界最強と今でも思う)のトリオによる、ドイツはハイデルベルグ・ジャズ・フェスでの1974年の実況録音盤。 (ちなみに上のアルバムジャケットが発売当時(勿論LP)のデザインで、今 手に入るCDではデザインが変更になった。)

僕がバイト時代に洋輔さんの人と音楽に出会った大阪梅田の老舗ジャズ喫茶「インタープレイ・ハチ」にちなんだ名曲「ハチ」を含む記念すべきアルバムでもある。

1曲目、洋輔・森山のデュオによる壮絶な掛け合い「ダブル・へリックス」はフリーな即興が絶頂に達した瞬間、2人の音がビシッと合ってエンディングを迎える。感極まった観客からは「イェーィ」の掛け声が。 続くピアノソロの「ニタ」で嵐の到来を感じさせ、1発目のクライマックス「キアズマ」へ突入、ドラムのロールから簡潔かつ印象的なリズムのテーマが現れ、ここに坂田のてんかん患者のようなアルトサックスが一気に炸裂する。

バックでは洋輔と森山が煽る煽る。ここでのサックスソロは、地元ドイツで"人間ダイナモ(発電機)"とあだ名された坂田明の面目躍如。あの小柄な体のどこからこれほどのエネルギーが放出されるのか、まったくもって信じられない。洋輔のソロがまたすごい。ゲンコ、肘うち、何でもありの盛り上がり、後ろからは森山のエルビン・ジョーンズも真っ青な正確かつポリリズミックなドラムが「おら、もっとやれよ」とばかりにけしかける。2人の演奏が頂点を迎え、ピアノのハンマーが1〜2本も折れたと思われるころ、これ以上ないタイミングで坂田が再度乱入し、3者もつれ合って凄まじい演奏が展開される。

その混沌たる即興演奏の極致の中で、3人の戦友は"あうんの呼吸"で、どんぴしゃとテーマに戻り、8分間に及ぶ至福の演奏は終わりを告げる。
聴衆の熱狂的な歓声から、既に5〜6人はパンツにちびってしまっているのが伺える(んな訳ねぇーか)。

これだけでも聴衆は打たれまくったボクサーの如く、ぐったりモードだというのに、更にピアノ・ドラムデュオによる「ホース・トリップ」から森山の創造性溢れるソロ「イントロ・ハチ」を経て、2発目のクライマックス「ハチ」へと続く。ここでも「キアズマ」を更に上回るかのような疾風怒濤の世界が繰り広げられる。いや森山のドラムの凄いことったら、アナタ。  

この音楽を前にして、これ以上の言葉は無力です。保証書つきの”聞かずに死ねるか、アルバム”。今でもヘッドホンつけて大音量で聞くたびに、この場に居合わせたドイツの聴衆に嫉妬してしまうほどです。

ちなみに洋輔さん、演奏後には本当にハンマーがよく折れていた。下の写真は大阪「ハチ」での'81年のライブで洋輔さんがぶち折ったハンマーである。

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