ジャズ大名とザ・ウチアゲ 



ジャズ大名

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皆さんは、どんなきっかけでジャズを好きになり、どうやってお気に入りのミュージシャンやアルバムを見つけていますか?
今日は僕がジャズの世界に引きずり込まれた学生時代の面白話を紹介します。

初めてジャズを意識したのは、高校三年の時、友達でジミヘンからパコ・デ・ルシアまでコピーしていたギター気違いがいたんですが、そいつが持ってきたフュージョン系のLP(当時は勿論CDなんてありませんでした)がきっかけでした。スパイロ・ジャイロ(なんと今も続いてるそうですが)という当時結構流行ったバンドで、それまでロック狂だった僕は、演奏の自由さとテクニックの高さに驚いた記憶があります。

ロックと言ってもYES,King Crimsonあたりを崇拝する、プログレファンだった僕は、もともとハードロックを音楽レベルが低いとバカにしていたのですが、フュージョンってプログレより凄いやん、と素直に感じたものです。

そんな出会いがあり、大学入学後、ふとしたきっかけで読んだ山下洋輔さんのエッセイから大阪のジャズ喫茶いんたーぷれい8に導かれたいきさつは最初に紹介しました。

この店には常連客が何人か集まり、月に1度の山下トリオのライブの後で、ウチアゲと称する狂喜乱舞のドンチャンセッションを繰り広げてました。当時のメンバーは、ピアノ弾きのマスターと前衛トランペッター(元プロ)の二人だけはプロ顔負けでしたが、後はアマチュアのベースにドラム。パワーだけは誰にも負けない名物マッチョおじさん、「りんご追分」をブルースにしてしまうハチママ、その他、参加する事に意義が有るという変な客たち(僕を含む)という、今から思えば、梅田の場末の地下倉だから許される演奏でした。
常連客は100%洋輔トリオの熱狂的ファンでしたから、自ずと演奏形態はフリースタイル。勿論まともにやれと言われても無理という事情もありましたが(笑)。

それでも洋輔さんは、このハチャメチャバンドとの共演を結構楽しんでいたようです。そして1981年の夏とんでもないコンサートが企画されました。その名も「ザ・ウチアゲ」。

当時から洋輔さんの周辺には、その魅力に引かれ、多くの文化人が集結していました。彼らの共通項は、既成観念にとらわれず、アホな事を徹底的に知的に楽しむ才能に恵まれていた事でしょう。彼らが中心となり展開していたムーヴメントに「全日本冷やし中華愛好会(1975-1979)」というのがありますが、これは「何故冬場に冷やし中華が食えないのか」という問題をきっかけに、冷やし中華に対する思い入れを哲学的・学術的アプローチで研究するという、大の大人のおバカで知的な遊びとして大きな反響を呼び起こしました。
※彼らが当時如何に真剣に遊んでいたかは、奥成達氏の資料館を見て下さい。一体なんで冷やし中華なのかという根源的な疑問を抱かれた人は山下洋輔の『へらさけ犯科帳』を読んでください。

へらさけ犯科帳 (山下洋輔エッセイ・コレクション)

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こうした仲間たちの間で、ライヴの後のジャズマンたちのウチアゲ芸が面白い事は良く知られていました。折りしも以前より山下さんと交友が深く、自らもジャズファンで、クラリネット奏者にまでなってしまった筒井康隆氏が傑作短編「ジャズ大名」を書き上げた頃で、これとウチアゲをテーマにコンサー卜にしてしまおうという前代未聞の企画が持ちあがったわけです。
ジャズ大名はジャズファンなら必読の傑作小説で、1986年に岡本喜八監督が映画化もしています。この映画では音楽監督を筒井氏自身と山下洋輔が担当し、これまた素晴らしい作品に仕上がっています。


さて”ザ・ウチアゲ”でググってみると、当日の詳細データが出てきました。便利な世の中になったものです。

さて趣旨に賛同して集まったのは、
(ジャズマン)山下洋輔/中村誠一/坂田明/タモリ/小山彰太/武田和命/ペッカー/吉野弘
(作家/評論家)筒井康隆/河野典生/堀晃/かんべむさし/平岡正明/相倉久人
(コピーライター)糸井重里
(その他)<ハチ軍団>・<ソークメナーズ>・<腰元ガールズ>・<編集者バンド>他多数(順不同)
※注)1.ソークナメーズ:新宿のバー「ジャックの豆の木」に
    当時集っていた洋輔さんらの仲間たちによる野球チーム
   2.編集者バンド:当時筒井氏が文芸春秋など連載していた
    雑誌の編集者達を「ジャズをしない奴に原稿は渡さん」と
    脅迫されてジャズを始めた編集者達によるバンド

ここに関西代表として、いんたーぷれい8の常連バンド「ハチ軍団」が特別出演したのでした。
場所は何と日々野の野外音楽堂!8バンドに加わって楽器のできない僕もスネアドラムで参加したのですが、今から思えば冷や汗もの。同じく楽器ダメの大工のお客さんは、演奏中にいきなり木材を切り出し升を作るというパフォーマンスを始めるは、マッチョおじさんはいつもと変わらぬ恐怖のフリー・フォーム・ボーカルで叫びまくるわ、入場料を払って集まった6000人の観客を前に、いつも通りのハチャメチャ演奏をぶちかましたのでした。

こうした経験をべースに形成された、僕のジャズに対する基本認識は、「やったもん勝ち」、「おもろうてなんぼ」なのです。

ジャズは難解でも、かしこまった音楽でもありません。自由な集団即興演奏を通じてグルーブ(いわゆるノリ)を生み出す事こそがジャズの本質だと思います。

この点さえ押さえておけば、やれビバップとハ一ドバップの違いがどうだの、コード進行がどうだの、マイルスのラッパは泣いてるが、タモリのラッパは笑ってるだの、といった薀蓄や知識はどうでも良い事です。

自分にフィーリングにぴったりのミュージシャンを見つけ、その人を中心にじっくりと付き合っていけば良いのだと思います。その内にサイドマンにもお気に入りが見つかり、そこから幅が広がっていくものです。ですから普通のファンには、歴史的意義だの、技術的解説だのから離れて、個人的な思い入れを熱く語り合う事が大切なのだと思います。

ブログはこうした思いを可能にしてくれる革命的なツールだと、最近改めて思います。

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